「私はどうしてここにいるのかわからなかった。
ここまで来るつもりは毛頭なかったのだ。
朝、いつもの通りにけだるくも支度を済ませ、ひとりきりの家をでたときにはまっすぐ会社へ向かうつもりだったというのに。
一歩ずつ、ベクトル方向がずれてしまっていた。
はじめはふと道を外してみようと思いまず一歩。
そしてそのまま突き進もうと考え二歩。
・・・・・
もう正規のルートはだいぶ外れていてしかし引き返すのは癪であった。
そう思いながら歩いてきて、ここはどこだかわからない。
もう引き返せない。
泥沼にはまってしまって動けない。
どうしてあのとき一歩道を外してしまったのか、そしてそのまま進んでしまったのか、いつでも引き返すことはできたのに。
全ては積み重ね。
・・・・・・・
ああ、雨だ。冷たい雨が降っている。
こんなにも身体を冷やしてやまない、冷たい雨なのにもっと降っておくれと、やまないでおくれと思う。
私はどうかしてしまったのだ。
現実から離れたこの場所でひとりきり、どこにも指針が見えないまま佇んでいる。
雨が私を捉えている。
でも私は本当はここから抜け出す道を頭のどこかでは知っているのだ。
知っていて、それでも、動かない。」
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